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2026.07.19集客・戦略

「物語で売れる」は本当か|数字で見るストーリーテリングのホントの効果

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「観光地には物語が必要だ」「ストーリーテリングでファンを作ろう」。こうした言葉をよく見かけます。

よく紹介される「驚きの数字」

ストーリーテリングを勧める記事では、次のような数字がよく引用されます。

「物語を添えるだけで、商品の価値が2,706%も上がった」 「ストーリーを用いた情報伝達は、データの羅列の22倍記憶に残る」 「購買における意思決定の95%は右脳で行われるため、感情に訴えるストーリーテリングは有効である」

これは驚きです。この情報を見て、デザインやマーケティングにおいてストーリーを語らない手はないと、多くの人が思うのではないでしょうか。私も多います。

しかし、我々はプロです。情報を鵜呑みにしてデザインをお客様に提供するわけにはいきません。というわけで、これらの論拠を調査してみました。

例えば、 「物語を添えるだけで、商品の価値が2,706%も上がった」 これはどこから出てきた数字なのか。

これは、あるジャーナリストが行った実験の結果です。フリーマーケットで買ってきた、1つ1ドル程度の安物(古い調味料入れやおもちゃなど)に、作家が考えた「架空の物語」を添えてネット通販で売ったところ、平均で30倍以上の値段がついた、という実験です。

面白い実験ですが、これは「1ドルのガラクタが、物語一つで骨董品のように扱われた」という、かなり特殊な状況での結果です。旅館や観光地を選ぶときの意思決定と、フリーマーケットの雑貨をコレクター心理で買うときの意思決定は、性質がまったく異なります。この数字を、そのまま観光の集客に当てはめるのは無理があります。

他の数字についても、個人の体験談的記事や、査読の甘い論文が元になっていました。

では、実際はどれくらい効くの

そこで、もっと信頼できるデータを探してみました。

見つかったのは、アメリカの有力な消費者行動の学術誌に掲載された研究です。これは一つの実験ではなく、世界中で行われた76本の研究を集めて、まとめて分析したものです。一つの実験だけでは「たまたま」の結果かもしれませんが、76本をまとめることで、かなり信頼できる傾向が見えてきます。

この分析では、物語への引き込まれ具合と、いくつかの心理的な反応との関係を、数字(相関係数)で表しています。この数字は0〜1の範囲で、1に近いほど「強く関係している」ことを意味します。

  • 物語に引き込まれた人ほど、その商品やブランドを**「好きになる」度合いが強くなる**(影響度:0.44)。
  • 物語に引き込まれた人ほど、その商品やブランドを**「信じる」度合いが強くなる**(影響度:0.26)。
  • 一方で、物語に引き込まれた人が**「今すぐ買いたい」と思う度合い**への影響は、それよりも小さくなる(影響度:0.31)。

「好きになる」「信じる」に比べると、「今すぐ買いたい」への直接的な影響は一段小さいのが分かります。

この0.31という数字を、もう少し実感の持てる形に直すと、物語が「買いたい気持ち」に与える影響は、全体のおよそ**1割弱(約9.6%)**にあたります。残りの9割以上は、価格や立地、サービスの質、実際の評判といった、物語とは別の要素で決まっている、ということです。

つまり、物語は「魔法の杖」ではなく「増幅器」

ここから言えることは、次のようにまとめられます。

物語だけで観光客が増えることはありません。 しかし、物語には、まったく意味がないわけでもありません。

物語が特に強く働くのは、「今すぐ予約する」という直接的な行動よりも、「この宿が好きだ」「この土地を信じられる」という気持ちの部分です。つまり物語は、価格や立地、サービスの質といった土台があってはじめて効果を発揮する、増幅器のようなものだと考えられます。

土台がしっかりしている施設が物語を語れば、その魅力はより深く伝わります。しかし、土台が整っていない状態で物語だけを足しても、増幅するものがないので、効果は限られてしまいます。

ウェブサイトへの活かし方

この結果を踏まえると、観光地のウェブサイトについて、次のような考え方ができます。

  • 物語のコンテンツに、過大な期待をかけすぎない。 「物語を載せれば予約が増える」という発想ではなく、「物語は、好きになってもらうため、信じてもらうための投資」と捉える方が実情に近い。
  • 物語より先に、土台を整える。 料金の分かりやすさ、アクセス情報の正確さ、実際の利用者の声。こうした基本情報がきちんと整っていることが前提で、その上に物語を重ねると効果が生きる。
  • 物語は「即効性のある集客策」ではなく、「中長期でファンを育てる手段」として位置づける。 「この地域の苦労や挑戦の歴史」を伝えるコンテンツは、すぐに予約数を伸ばすものではなくても、その土地を長く記憶に残し、次に旅を考えるときに思い出してもらうための布石になります。

「物語さえあれば売れる」という話も、「物語なんて効果がない」という話も、どちらも実情とは違います。物語は、地道な土台づくりと組み合わせてはじめて力を発揮する、控えめだが確かな武器だ、というのが、今回数字を確認して分かったことです。


参照データ・出典

A complete guide to storytelling in market research

Storytelling Statistics By Marketing, Brand, Demographics And Content (2025)

The Extended Transportation-Imagery Model: A Meta-Analysis of the Antecedents and Consequences of Consumers’ Narrative Transportation

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